AGRIMEDIA LABOアグリメディア研究所

郊外の水田地帯をリニューアル、企業集積型の「農業団地」が地方を変える!?(前編)

利根川をはさんで群馬県と隣り合う埼玉県北東部の羽生(はにゅう)市。

当研究所の運営母体であるアグリメディアは今年の4月から、この町の水田地帯にある農業をテーマとした公園「羽生市三田ヶ谷農林公園 キヤッセ羽生」の運営をはじめることになりました。農産物直売所やカフェ、BBQ場のほか、収穫体験も楽しめるこの公園をアグリメディアが管理することになった背景には、ほど近い場所にある「農業団地」の存在があります。

羽生市とともにアグリメディアがコンサルタントとして2019年から取り組む農業団地への企業誘致が一定の成果をあげ、農業を軸とした街づくりが芽吹きつつあるのです。

名だたる企業の農業参入はしばしばニュースになりますが、行政と企業が一体となって企業を誘致する例はあまり耳にしません。この取り組みで成果があがれば、ほかの地方にも波及し、大企業の農業参入のあり方に影響をもたらすかもしれません。

かつて自身も農業法人の社員として地方での農業参入を経験した当研究所の客員研究員、小野淳がその現状と可能性をレポートします。

農業団地とは?

「団地」というと、住宅や工業団地をイメージする方が多いと思いますが、本来は「単一機能が集積する土地」を指します。農村では個人農家が一帯の農地を集落として管理することが多く、そもそも「団地」的な土地利用が行われていました。ここでいう「農業団地」とは、そうした従来型の団地とは異なり、行政などが計画的に土地を集約して先進的な農業経営体を誘致する取り組みといえます。

羽生市役所の農政課農業政策係の手島優里花さんに話を聞いたところ、

「2018年に『羽生市観光農園等基本構想』を策定し、キヤッセ羽生や水郷公園を含めて一帯として農業や観光振興の取組みに力を入れていくことになりました。もとはほぼ水田だったのですが80軒ほどの農地所有者に協力をいただき、24haをチャレンジファーム構想エリアと位置づけました。企業などある程度の規模の農業経営ができる団体を誘致し、市が農地所有者との間に入って、農地の整備などについても協力していく仕組みとしました」とのこと。

 

現在、実際に団地での営農をしているのは4社
・ケンゾー株式会社(スーパーマーケットやレストランを経営する地元企業)
・株式会社げんき農場(農業用資材メーカーの渡辺パイプのグループ会社)
・ポタジェガーデン株式会社(国内有数のハーブの生産法人)
・株式会社タカミヤ(建設用仮設資材の製造、販売、レンタル会社)

合計12ha、農業団地全体の5割が貸借されている状態です。

「今回は国が進めている農地バンク(農地中間管理機構)の仕組みを使い、基本的に20年借りて営農してもらっています。企業のみなさんとしては手間がかかりがちな地権者との直接のやり取りではなく、市が仲介役として実質の窓口となることで契約関係などもスムースになり、参入を進めやすかったのではないかと思います」(手島さん)

地域一帯としての振興がこれからの課題

小型のパイプハウスを中心に各種ハーブの生産を手掛けるポタジェガーデン以外は大型のハウスを建てて、イチゴ、トマト、キュウリなどを生産。ケンゾー株式会社によるイチゴの摘み取り以外は、生産に特化した営農となっています。

 ※後編にて各社の取組を詳しくレポートします

「進出がはじまった2019年以降、各社は徐々に経営規模を拡大しており、いまのところ順調に推移しているとみています。新規参入の問い合わせは現在もきていますので、まずは確実にこの24haへの誘致を進めていきたいところです」(手島さん)

農業団地、キヤッセ羽生、県立公園、水族館はいずれも徒歩での移動が可能で、このエリアはコロナ禍で低迷していた賑わいの復活が期待されています。

「キヤッセ羽生の運営がアグリメディアに移行したことをきっかけに、周辺施設をつなぐ周遊ツアーなどの企画ができればと考えています。その際は農業団地の進出企業で構成される地域の協議会が軸となると思います」(手島さん)

新規参入者同士のネットワークづくりによって”面としての価値”を生み出し、集客や販促につなげていく。そのハブとなるのが、直売所を併設するキヤッセ羽生となります。

 

第3セクターから民間に「キヤッセ羽生」のこれから

キヤッセ羽生はもともと2001年に開園し、羽生市が筆頭株主の第3セクターによって運営されてきました。「キヤッセ」とは「来やっせ」(いらっしゃいませ)のもじりでこの地域の方言とのこと。開業時は地ビール工房もあり年間30万人以上の来客でにぎわったものの、飲食事業なども赤字が続き、指定管理制度を導入して2023年4月からアグリメディアに運営が移りました。

アグリメディアとしてはすでに神奈川県伊勢原市の農業公園や、同じく神奈川県清川村の道の駅などの運営実績を活かし、自らが企業誘致で関わった農業団地との連携を深めていきたいところです。

「飲食メニューを開発して、BBQ場をリニューアルオープンさせたのが今までとの大きな違いです。ジャガイモの収穫体験などもはじめていますが、認知度がまだまだです。ちかくにある淡水魚の水族館がわりと話題性もあって人が来ているので、そこからの誘客がまず取り組むべきところだと考えています」(㈱アグリメディア常駐スタッフ)

近くに農業団地ができたことで直売所の物量は充実、ハーブを使ったレストランのメニュー開発や、各社が所有しているキッチンカーの出店などの連携も始まっています。

しかしながら広い敷地をまだ生かし切れていない印象もあり、まずは公園の顔である直売所の集客を伸ばし、休日だけではなく平日の飲食需要も掘り起こしていきたいところです。民間ならではのフットワークで外部団体と連携し魅力的なコンテンツを取り入れながら大胆に転換をはかっていくことで新たなキヤッセ羽生のイメージを生み出していけるのではないでしょうか。

後編につづく

最新型の大型ハウスがつらなる「農業団地」

各社参入しての手ごたえを農場責任者にインタビュー

デザイン・編集担当

浅沼美香(あさぬま・みか) デザイン事務所で15年間、プロデューサー・デザイナーとしてウェブサイト、広告などを製作。その後はフリーランスとして一般企業などから製作業務を受託する。シェア畑の一利用者だったが、農業好きが高じてアグリメディアで働くようになった。「農×デザイン」に関心。

◇アグリメディアは企業や自治体との協業、コンサルティングを推進しています。お気軽にご相談ください◇

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