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「オーガニック日本酒」解禁!~ビオサケは世界で勝負できるのか?~

 

最近、「食✕カーボンニュートラル」の世界でまた1つ、大きな動きがありました。

日本酒のラベルに「オーガニック」「有機」と表示できるようになったのです。すでに欧米など海外では「オーガニックワイン」や「オーガニックビール」といった商品が店に並んでおり、Z世代など環境意識が高い若者から支持されています。今回の制度改正は、世界で人気を博しつつある「SAKE」(=日本酒)にどのような効果をもたらすでしょうか。普及団体を運営する種藤潤さんと、飲食店オーナーの松田誠司さんに話を伺いました。

※編集部注:本稿では「オーガニック」と「有機」は同じ意味で使用。

 

ワンポイント解説

食品などに対して一定の品質があると国がお墨付きを与える「JAS規格」の対象は従来、一部の食品にとどまっていましたが、日本酒などが海外で人気を博していることから、政府は2022年5月にJAS法を改正し、有機酒類を対象に加えました。
これにより、製造業者は有機酒類に有機JASマークを貼り付けることができ、欧米など主要な輸出先の有機認証を取得しなくても有機として輸出できるようにもなりました。国内関連業者の間ではビジネスチャンスが広がるとの期待感が広がっています。

 

東京五輪がきっかけで生まれた
「ビオサケ」

小野
ずらっと日本酒が並んでいます。これらすべてが「ビオサケ」ですか?

松田
そうです。ここでは「ビオサケ」を名乗れる日本酒が130種類(編集部注:松田氏調べ)ほどあり、そのうち30種以上が常に飲めるようになっています。洋酒もオーガニックが揃っています。

 


※ビオサケを常時30種以上は飲める、渋谷道玄坂の「酒とご飯 ビオサケダイニング リンリン」

小野
そもそも、「ビオサケ」とは、どういうものでしょうか。

種藤
ビオサケを知っていただくには、私たちの活動をご説明する必要があります。私が事務局長を務めるオーガニックレッジジャパン(以下OVJ)は、東京五輪で日本のオーガニック(有機農産物、有機加工食品)をアピールするため、2014年に活動を始めた団体です。

「そういえば日本の制度では、”オーガニック日本酒”とは表示できないけど、実際には有機酒米(編集部注:用途を日本酒向けに限定した有機米のこと)があるし、それを使った日本酒もある。この実態と制度とのズレは、一体どういうことだろう?」と思い立って動き始めたのが、団体設立のきっかけです。

これらに該当する日本酒の銘柄を「ビオサケ」としてリストアップし、私たちが出版する業界向け専門誌「ORGANIC VISION」で特集を組むなどして、積極的にアピールしてきました。

 

小野
化学肥料、化学農薬不使用を証明する「有機JAS認証」は、乳製品や調味料などの加工品は対象ですが、酒類は認められていなかったのですね。

種藤
そうです。酒類が農林水産物を扱う農林水産省ではなく、国税庁の管轄であることから、そうした状態が続いていましたが、2022年5月に有機JAS法の有機加工品に酒類が加わり、表示できるようになりました。とはいえ、過去から有機日本酒、オーガニック日本酒と呼んでも差し支えない製品はすでにありましたし、天鷹酒造(栃木県)、丸本酒造(岡山県)のように海外の認証を手間暇かけて取得してきた蔵元も存在しました。それらをひっくるめて「ビオサケ」と総称しています。

 

 

 

小野
OVJでは、どのような活動をおこなっているのですか。

種藤
専門誌での特集や試飲会のほか、コロナ禍を踏まえて昨年からは、「ビオサケ」を飲みながらオンラインで議論する「ビオサケオンライン研究会」を開催しています。これまでは認証がなかった分、自分たちで足を使いながら、卸事業者や飲食業界とのマッチングの機会などを作っていました。 今回の制度改正である程度、基準がしっかりできたことはよかったと思っています。先日OVJ会員の関連団体が主催した「有機JAS酒類オンラインセミナー」では、平日の日中にもかかわらず80名ほどが参加し、蔵元など酒造関係者、商社など流通関係者で大賑わいでした。これまで地道に広げてきたネットワークを活かし、普及促進をお手伝いをできればと考えています。

世界での需要が急激に伸びている
「SAKE」

小野
グローバルに見ると、オーガニック酒の市場は伸びており、日本酒の輸出も好調です。2021 年度の日本酒は輸出額・数量ともに過去最高の400億円超え(昨対比:166.4%)と話題になりました。輸出業者などもニーズを感じているのではないでしょうか。

 

 

 

松田
和食ブームもあり、そうした話はよく耳にします。香港の有名ホテルバイヤーが日本にわざわざ買い付けに来ているといった話ですね。茨城県で有機酒米を生産する農業生産法人も、海外向けに引き合いが強いと話しています。

 

種藤
今までお酒には日本の有機JAS認証をつけられなかったので、原材料が有機であることを謳ったり、海外の認証を取りに行ったりと手続きが大変だったわけですが、国内の認証で海外との同等性が認められれば、随分とすっきりします。
ただ正直、これを機にオーガニック日本酒が急拡大するかというと、まだ課題があると感じています。

小野
どのような点ですか。

種藤
すでに長い間、ビオサケのような取り組みをしてきた蔵元は、独自のブランドに力を入れています。有名どころでは、福島の仁井田本家はかねてから「自然酒」というブランドを持っており、酒米も契約栽培だけではなく自社農場でつくっています。「こめぬかチョコレート」などのヒット商品もあり、有機やオーガニックという認証がないなかでも、十分に認知されて信頼を得ています。
逆にそこまでブランド力がないところが参入するとなると、認証をとるコストに見合うだけの売り上げ増を見込めるかどうかが課題となります。
蔵元が認証をとるためには製造工程を他の日本酒と完全に分けて、オーガニック専用の製造ラインを作らなければなりません。

 

 

 

オーガニックビレッジでの
日本酒造りに期待

小野
そもそも有機米の絶対量は少なく、用途を酒に限定した有機酒米となるとさらに希少です。さらに製造ラインを新規でつくるとなると、確かに体力が必要となりますね。ただ、農林水産省の「みどりの食料システム戦略」では、自治体単位で立ち上げる「オーガニックビレッジ構想」が目玉の1つとなっており、地域が一体となって化学肥料、農薬減に取り組む場合には、なんらかの支援措置が講じられる可能性があります。

種藤
それはあると思います。地域の生産者と蔵元が手を取り合い、輸出業者や飲食店などとも連携していく。そういったマッチングを進めていくのが、私たち「ビオサケ」プロジェクトの中核的な取り組みです。
県や市町村の単位ではなく、もっとこじんまりと集落単位で取り組むのも手でしょう。あるいは県や自治体が横断的につながり、たとえば「瀬戸内海エリア」といった広域の主体が旗振り役を務めてくれてもよいでしょう。

小野
ワインの世界では、エリア全体の風土や環境特性を「テロワール」と呼び、風味やブランドの決め手になるといわれています。日本酒にも、こうしたエリア全体で底上げする手法を取り入れてほしいですね。

 

 

 

種藤
「農!と言える酒蔵の会」という、酒米づくりに取り組む蔵元の会がありますが、まさにワインに近い考え方で活動しています。ゼロから小さな酒造メーカーが酒米づくりに参入するのは大変ですが、産地間でノウハウが共有されれば、さまざまなプレーヤーがオーガニックに参入しやすくなります。
大手の挑戦にも期待しています。大手酒造メーカーが大規模投資によってオーガニック日本酒に進出し、世界で勝負するとなるとフェーズが変わるでしょう。

 

オーガニックは
背景とストーリーで掘り下げる

小野
消費者の反応についてお尋ねします。松田さんがオーガニック日本酒の専門飲食店を開業したのは、どういう経緯からでしょうか。

松田
もともと私はホテルの飲食部門で働いていた人間で、全国のリゾート施設などに勤務していました。とにかく日本酒が好きで、その土地の酒を飲み比べ、仕入れもしていました。そうした中、無農薬、無化学肥料の日本酒と出会ったのです。これが体にすっと入って二日酔いもしない。毎日、日本酒を飲んでいる私としては、安全なものを探したいとの思いがありました。オーガニックの世界にのめり込んでいく過程で「どうやら、オーガニック日本酒を専門で扱う飲食店は存在しない」ことを知りました。将来性がある領域だし、正しい日本酒の姿を紹介するべきだ、と考え、店を開くことにしました。

小野
反響はどうでしたか。

松田
2019年の開店以来、多くのお酒好きの方から支持をいただいていますが、有機やオーガニックにとりわけ反応するわけではない、といえますね。コロナ禍の前は、外国の方も日本酒を目当てに来店いただいていました。まだまだオーガニック日本酒の認知度は低いので、どんどん盛り上げていきたいですね。

 

 

 

 

種藤
オーガニックの魅力の一つに、背景を掘り下げていく楽しみがあります。味はもちろん大事ですが、それ以外の部分も楽しめれば、日本酒や料理の世界はぐっと深まります。私は元々、食関係の文章を書いたり、編集をしたりする仕事に就いていましたから、背景とストーリーで食文化を掘り下げていくことを得意としています。
9月16日から3日間、東京浜松町で開催される国内最大のオーガニックイベント、オーガニックライフスタイルEXPO2022でも「ビオサケ」の試飲ブースを出しますので、多くの方に興味を持っていただければ嬉しいです。

 

デザイン担当

浅沼美香(あさぬま・みか) デザイン事務所で15年間、プロデューサー・デザイナーとしてウェブサイト、広告などを製作。その後はフリーランスとして一般企業などから制作業務を受託する。シェア畑の一利用者だったが、農業好きが高じてアグリメディアで働くようになった。「農×デザイン」に関心。

監修担当

中戸川 誠(なかとがわ・まこと) 日本経済新聞社の記者として10 年間、BtoC企業、エネルギー問題、農業政策などを取材後、アグリメディア入社。水田の畑地化プロジェクト、農業参入企業へのコンサルティングなどを推進。現在は新規事業を企画・実行部門とアグリメディア研究所所長を兼務。長野県諏訪市在住。

◇アグリメディアは企業や自治体との協業、コンサルティングを推進しています。お気軽にご相談ください◇

https://agrimedia.jp/contact/

 

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