世界中の関心がウクライナに集まっている。農を軸に情報発信するアグリメディア研究所としても、世の中の役に立ちたいと考えた。たどりついたのが、ヨーロッパの穀倉地帯と呼ばれるウクライナの農村風景を読者に示し、この国の理解を深めてもらうこと。ウクライナは国土の7割を農地が占め、農地面積は日本の12倍にもなる。さあ、近くて遠い、ウクライナの原風景を見にいこう。
写真はすべてGoogleのストリートビューから引用した。
ウクライナは肥沃な土壌といわれる。養分のバランスがよく、作物の栽培に適した土「チェルノーゼム(黒い土)」がそれ。クオリティーの高さから”土の皇帝”とよばれ、第二次世界大戦時にこの国を攻撃したナチス・ドイツ軍が貨車でこの土を運び出そうとしたとの逸話があるほどだ。いま、ロシアと激しい攻防戦を続けるウクライナ第二の都市、ハリコフの西側に広がる大地は一面真っ黒。ウクライナは土壌の6割がこの黒土という。
古来から戦乱が絶えなかったウクライナ。富を生むゆえ、権力者たちを惑わす土といえるかもしれない。
同じく、ハリコフ周辺ではこんなシーンもみつけた。2021年7月に撮影された。ウクライナでは小麦の作付けは毎年8~9月ごろ、収穫は翌7~8月ごろ。これはまさに小麦の収穫の1コマだろう。日本もそうだが、農村では農作物の収穫時に盛大な祭りがおこなわれる。ウクライナでは夏至を祝う祭り「イワナ・クパーラ」が7月の恒例行事となっている。伝統衣装を着た人たちが、花輪の冠をかぶり、たき火を飛び越えたり、ときには全裸で泳いだり。そんな楽しい祭りが今年はどうなるのか。
各地の写真を見ていると、ウクライナは水辺が多いことがわかる。この写真はおそらくため池だろう。ウクライナは小麦生産量で世界7位、大麦では世界5位の大農業国だ。小麦1キログラムを生産するためには、その2000倍の2000キログラム(2000リットル)もの水が必要とされる。水が豊富なのもウクライナの特徴の1つといえる。
井戸端に立つおばあさんと馬。ウクライナは起伏のはげしい日本と異なり、見渡す限りの平原が珍しくない。農業の観点でいえば、狭小地に比べて生産性が格段に高い半面、軍事的には陸上部隊に難なく攻め込まれやすく、平原は諸刃の剣との見方ができる。日に日に緊迫度が高まるウクライナ情勢。こうしたおばあさんや馬のような、市井のものたちの無事を願わずにはいられない。(了)
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中戸川 誠(なかとがわ・まこと) 日本経済新聞社の記者として10 年間、BtoC企業、エネルギー問題、農業政策などを取材後、アグリメディアに入社。農業参入企業へのコンサルティング、自治体や大企業との農ある街づくりプロジェクトなどを推進。現在は新規事業を企画・実行する部署のマネジャーとアグリメディア研究所所長を兼務。長野県諏訪市在住。週何回かは東京。週末農夫。
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