1つ、クイズを出したい。
次のうち、「農業産出額」が5年連続1位の市町村はどれか。
回答は後ほどするとして、とりあえず本題に入ろう。
東海地方は多彩、というのが第一印象だ。
「米」、「野菜」、「果実」、「肉用牛」、じつにバラエティーに富んでいる。
東海地方は自動車などモノづくりのイメージが強いが、農業も負けていない。さきほどの質問、答えは③の愛知県田原市。太平洋に面した渥美半島の中ほどにある町だが、農業日本一とは意外感がないだろうか。
田原市・農政課の藤井さんに話を聞いた。
「4つの理由が考えられます。昭和43年に通水した農業用水の使い勝手がいいこと、日照時間が全国的にみて長いこと、冬場に吹く独特の北風がキャベツの甘味を引き出すこと、名古屋・東京・大阪へのアクセスがいいことです。田原で朝採れのトウモロコシが、午後には東京のスーパーに並ぶことがあります」
ちなみに、先ほどアップした暗闇に光が浮かぶ幻想的な写真は、「電照菊」をビニルハウス内で栽培する田原市の一風景だ。人工的に日照時間を長くすることで、「開花を遅らせる→さまざまな時期に出荷できる→結果的に農家の手取り収入が増える」という好循環がうまれている。
田原の農業は昼だけではない。
(注:この記事の作成中に農林水産省から直近のランキングが公表され、田原市は2位に。首位は宮崎県都城市)
近畿は「米」「野菜」「果実」が、エリアごとにうまくすみ分けられている。
兵庫県には新潟県のような米どころのイメージはないが、日本酒に使用する米「酒米」では全国の生産量の3割を占めるダントツ首位だ。神戸市東部から西宮市の甲子園球場あたりの沿岸部、灘地区には、いまでも酒蔵が立ち並ぶ。「白鶴」「大関」「菊正宗」「日本盛」etc・・・。灘は老舗銘酒の発祥地でもある。消費地(京阪神)と産地が近いと独自性の高い食文化が発展しやすいようだ。
和歌山といえば、みかん。とくに「有田みかん」は全国的に知られている。
心配なのは地球温暖化だ。
農林水産省の資料には、温暖化が「温州みかん」(有田みかんもこの一種)に及ぼす影響について、こんな表現がある。
「栽培適地(年平均気温が15~18℃)は徐々に北上し、2030年代に新潟平野、2040年代に関東平野、2060年代に南東北まで拡大。2060年代には現在の主産地(静岡、和歌山、南九州の沿岸部)のほとんどが18℃以上となりミカン栽培に適さなくなる」
この問題は農業に死活的な影響をもたらしかねないので、あらためてアグリメディア研究所で特集してみたい。
中国と四国地方は地理的にみて同一エリアと扱われがちだが、農業の特色には大きな違いがある。
四国は「野菜」がつよい。
とくに食卓にかかせないナスは高知産が市場を席巻している。
直近の市場シェアは13.5%と過去最高を記録した。
売り方も工夫している。
いま、JAグループ高知などが訴求しているのが、ナスの機能性だ。
昨秋、「高知なす」が生鮮ナスでは全国で初めて、消費者庁の機能性表示食品に登録された。
血圧改善や気分改善の効果があるとされるコリンエステルが他の農産物より多いことが証明され、はずみがついた。
瀬戸内では「転作」に活路を見出している。
「みかん」から「レモン」だ。
みかんはどうしても冬期に仕事が偏るが、レモンはほぼ年間を通して収穫できるのが、おおきなメリットだ。輸入品のシェアを徐々に切り崩すかたちで、瀬戸内産がじわりと支持を広げている。
九州が他の地域と明らかに異なるのは、「肉用牛」と「豚」の存在感が高いこと。
とりわけ宮崎、熊本、鹿児島の南九州3県は畜産王国だ。
「和牛」は海外でも評判がいい。
今年1~4月の輸出量は前年の2.1倍。上質な脂がのった肉が香港や中国のお金持ちの間でうけている。
肉用牛と豚には、世界的な動きに左右される性質があるのも、忘れてはならない点だ。国境をこえた輸出入が盛んなためで、地域ごとで消費されやすい野菜や米とは異なっている。
いま、さかんにメディアで叫ばれている「ポークショック」はまさにそうだ。
コロナ禍が落ち着き、レストランなどが再開しはじめたアメリカで端を発した豚肉価格の高騰のことで、日本の食卓にも波及しつつある。
九州の畜産農家には、世界情勢を見極める広い視野が求められている。
記事担当
中戸川 誠(なかとがわ・まこと) 日本経済新聞社の記者として10 年間、BtoC企業、エネルギー問題、農業政策などを取材後、アグリメディア入社。水田の畑地化プロジェクト、農業参入企業へのコンサルティングなどを推進する。現在は社長直下で新規事業を企画・実行する部署のマネジャーとアグリメディア研究所所長を兼務。
デザイン担当
浅沼美香(あさぬま・みか) デザイン事務所で15年間、プロデューサー・デザイナーとしてウェブサイト、広告などを製作。その後はフリーランスとして一般企業などから製作業務を受託する。シェア畑の一利用者だったが、農業好きが高じてアグリメディアで働くようになった。「農×デザイン」に関心。
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