いつも不思議におもうことがある。
農業が”一括り”に語られることだ。
「ニッポンの農業は~」などと、ステレオタイプな、ざっくりとした会話がごく自然に交わされている。
都会のひとほどその傾向は強いかもしれない。果たしてその見方は正しいのだろうか。
山梨のぶどう農家と阿蘇の畜産農家では、働き方、仕事への思い、見る風景、当たり前だが違っている。
もっと丁寧に、エリア、品目の違いに関心をもつことが、農業の理解を深める第一歩になるのではないか。農業のダイバーシティ(多様性)にもっと気を払いたい。
そんなおもいから、アグリメディア研究所では農林水産省のデータを活用し、アグリ・グラフィックをつくった。
「へえ、わたしの故郷はこんな農業なんだ」
本記事で小さな発見をしていただければうれしい。
※農林水産省が公表しているデータを利用し、全国の市町村を、農業産出額が最も多い部門(コメ、野菜、果実、肉用牛、乳用牛など)ごとに色分けした。
まずは日本の食料基地、北海道からみていこう。
目立つのが東側全体をおおっている「乳用牛」の存在だ。
北海道は日本全体の生乳生産額の5割を抑えている。生乳とは搾りたての牛の乳のこと。都会のスーパーでも北海道産牛乳はたくさん並んでいる。
乳用牛を扱う酪農業は、他の農業部門より収益性が高いことで知られる。酪農が盛んな帯広市にある高級車レクサスの販売店は屈指の売上高を誇るといわれている。
だが、楽をして稼いでいるわけではない。
北海道の酪農業の平均所得は2049万円とお米農家の3.8倍になるが、労働時間も3倍。時給換算すると、酪農が3050円、お米が2283円。いわれるほどの差はない。
牛の世話には植物とは異なる苦労がある。
次に広大な土地が広がる東北をみてみよう。
基本は「お米」だ。
山形県の庄内平野などは典型だが、見わたす限り水田が広がっている。日本の原風景といっていい。
ところどころにお米とは異なる色のかたまりが点在しているのも、東北の特徴の1つだ。いわゆる「産地」と呼ばれ、同一地域で類似の農産物を大量につくっている。地域のみんなが力をあわせて量と質を確保することで、消費者に対する認知度を高め、ひいてはブランド力を形成する効果をもつ。
青森県西部は「リンゴ」、山形県南部は「さくらんぼ」だ。珍しいところでは岩手県北部の「ブロイラー」がある。こうしたエリアでは資金力がある会社組織が活躍しやすい。岩手町では来春、鹿児島県の企業が6億円を投じて東京ドームの面積に相当する大型養鶏場をオープンさせる。
関東地方はどうか。
全般的に「野菜」が目につく。
東京、神奈川、埼玉、群馬、千葉北部、茨城中部は特にそうだ。
野菜の生産に適した関東ローム層とよばれる独特の土が広がっていることが大きい。ほかの農産物に比べ、葉物野菜などは鮮度が落ちやすいため、輸送の都合上、大人口を抱える首都圏市場からアクセスがよい地域で発展しやすかった面もある。
アグリメディア研究所では、中長期的に一部の「お米」エリアは「野菜」エリアに変わっていく可能性が高いとみている。
コロナ禍の影響で、直近の米消費量は22万トンも落ち込んだ。千葉県の米生産量に匹敵する規模で、日本人の米離れは加速している。一方、健康志向などを背景に野菜の消費は堅調だ。料理共有アプリのヴァズ社が今春公表したアンケート調査では「コロナ禍以前より野菜を摂る頻度が増えた」との回答は45%に達した。
埼玉県北部の羽生市では東京ドーム5個分の水田を、野菜や果樹をつくる畑地に変える一大プロジェクトが始まっており、イチゴの観光農園やハーブの農場がぞくぞくオープンしている。
その意味で、ほぼ「お米」で埋め尽くされた北陸地方はニッポン農業の課題の縮図といえるかもしれない。
この地図が示しているように、ここまで地域をあげて単一作物に依存した状況ができあがると、一農業者の都合で他の作物に作付け変更することが(もちろん不可能ではないにせよ)簡単ではないことは何となく想像できると思う。水を共同利用する米は、地域共同体との連携が欠かせない作物でもある。
とはいえ、悲観しすぎる必要はない。
解は、米作りの生産性をできるだけ高め、消費者に選ばれる米を世に出し続けることだ。
人手で担っていた部分をドローンやセンサーに置き換えてコストを引き下げ、ライバル産地より競争力の高い米をつくる。国内市場が縮小するなら、輸出を視野に外国人に選ばれる米作りに挑む。
”未来志向”が北陸農業のキーワードになっていくだろう。
※西日本編につづく
https://agrimedia.jp/efforts_for_agriculture/labo/%e5%9c%b0%e5%9b%b3%e3%81%a7%e8%aa%ad%e3%81%bf%e8%a7%a3%e3%81%8f-%e8%be%b2%e6%a5%ad%e3%81%ae%e3%83%80%e3%82%a4%e3%83%90%e3%83%bc%e3%82%b7%e3%83%86%e3%82%a3%ef%bd%9e%e8%a5%bf%e6%97%a5%e6%9c%ac%e7%b7%a8/
記事担当
中戸川 誠(なかとがわ・まこと) 日本経済新聞社の記者として10 年間、BtoC企業、エネルギー問題、農業政策などを取材後、アグリメディア入社。水田の畑地化プロジェクト、農業参入企業へのコンサルティングなどを推進する。現在は社長直下で新規事業を企画・実行する部門のマネジャーとアグリメディア研究所所長を兼務。
デザイン担当
浅沼美香(あさぬま・みか) デザイン事務所で15年間、プロデューサー・デザイナーとしてウェブサイト、広告などを製作。その後はフリーランスとして一般企業などから製作業務を受託する。シェア畑の一利用者だったが、農業好きが高じてアグリメディアで働くようになった。「農×デザイン」に関心。
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