農業を活性化するにはどうすればよいか。きょうは「売り場」からこの問題に迫ってみよう。いくらいいモノをつくっても、いくら鮮度を高めても、消費者がその価値をしっかり理解しなければ意味がない。2つの個性的な「売り場」を紹介する。
道の駅のディズニーランドがあるー。こんな噂を耳にした筆者が山梨県南部町の道の駅を訪ねたのは2月中旬のこと。TTC(静岡県熱海市)という企業が2018年から運営する真新しい道の駅だ。
第一印象は、とにかくにぎやか。彩り、商品点数がそうだ。筆者が属するアグリメディアも、神奈川県内で道の駅を運営しているからよくわかるのだが、売り場は視覚的な印象がきわめて大切。「なんとなくワクワクする」「美味しそうなものがありそうだ」といったポジティブな心理をいかに消費者にいだかせるかが、道の駅の収益を左右する。
ここ南部町はお茶の産地でもある。もともと土産物の企画を祖業とするTTCは地域の名産品を使った商品の企画が得意だ。さまざまなメーカーと手を組み、”ここでしか売られていない商品”を作り出している。お茶を使った緑色のカレー、たばこ自販機に模したお茶の面白アイテムしかり。全国9カ所(出店内定含む)で道の駅などを運営するTTCは、こうした”ここでしか売られていない商品”を1店舗につきだいたい200~300種類並べている。どこにいっても金太郎飴のように同じ商品が陳列されているコンビニ・スーパーが小売市場を席巻する我が国において、これは驚異的な数だ。手間暇かけたオンリーワンの商品を陳列することで、ついで買いを誘い、客単価の向上や集客増につなげている。
TTCの担当者の口からはこんな言葉が聞かれた。「常に進化しないと。お客さんはすぐ飽きる」「地元のものでとにかく美味しいものを作るのが一番」「売り場が寂しい感じはダメ。ボリューム陳列が大事」「知らない間に奥に進んでしまうような動線の店にしている」。焦りの感情にも似た、徹底した利用者目線がそこにはある。
ローカルな道の駅を舞台に独自の売り場づくりに挑むのがTTCなら、動画を使い農産品の価値を正しく伝える売り場づくりに取り組むのが大手のイトーヨーカドーだ。
”5秒マーケティング”という言葉をご存じだろうか。
売り場を回遊する消費者はわずか5秒の間で「この商品を買うか買わないか」を決めているという、マーケティングの世界で言い伝えられる消費者の行動心理のことだ。短時間で消費者に価値を伝えることの重要性を示した用語でもある。
イトーヨーカードー、日本総研、凸版印刷の3社がこの冬、イトーヨーカドー曳舟店(東京都墨田区)の青果売り場において、青果の生産者の肉声やおすすめレシピを動画で紹介し、どれほど反響があるかを調べた実証実験の結果が興味深い。
青果売り場に7インチの端末を取りつけ、万能なめこ、カブ、ほうれん草、アイコトマトに関し、全編5分程度に編集した紹介動画を流したところ、各野菜の売上高が目に見えてぐんと伸びたのだ。前年の同期間の売上高と比べると、アイコトマトで約180%増、ほうれん草で約120%増、万能なめこで約110%増えた。
この結果から読み取れるのは、消費者は既存の殺風景な売り場に満足していない、ということだ。この野菜の価値はなにか、栄養素はどうなっているのか、生産者はどのような思いでつくったのか。いつ収穫され、鮮度はどのような状態なのか。こうした情報が的確に売り場で提供されていないゆえに、素通りしてしまう。もったいない。
農業の活性化につながる2つのユニークな事例を紹介した。これらにならって、ワクワクドキドキさせてくれる魅力的な売り場がもっともっと増えてほしい。
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中戸川 誠(なかとがわ・まこと) 日本経済新聞社の記者として10 年間、BtoC企業、エネルギー問題、農業政策などを取材後、アグリメディア入社。遊撃的に守備範囲を変えつつ、農業参入企業へのコンサルティング、自治体や大企業との農ある街づくりプロジェクトなどを推進する。現在は新規事業を企画・実行する部署のマネジャーとアグリメディア研究所所長を兼務。長野県諏訪市在住。
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