
クライアント担当者
矢吹町役場 農業振興課 課長兼農業委員会事務局長 鈴木 辰美 様
矢吹町役場 農業振興課 遊水地対策室 室長 角田 良次 様
矢吹町役場 農業振興課 農政係 係長 渡部 聖矢 様
(所属・役職はインタビュー時点のものを掲載)
事業・プロジェクト内容
矢吹町は、福島県の南部に位置しています。東北自動車道、東北新幹線、福島空港など交通の利便性に恵まれており、首都圏をはじめ全国へのアクセスに優れています。そのため「南東北の玄関口」として、産業・流通の面で重要な役割を果たしてきました。また、日本三大開拓地の一つとしての歴史を持ち、美しい田園風景が広がる町でもあります。
しかし、近年は慢性的な水不足等の影響により従来通りの農地活用が困難になった地区が出てきました。そこで矢吹町は、アグリメディアと連携し、活用が困難となっていた農地の再活用に挑みました。
水が届かなくなった30ヘクタールの水田地帯
福島県矢吹町に広がる約30ヘクタールに及ぶ農地(白山・神田地区等)は、慢性的な水不足によって用水の供給が困難になり土地改良区から除外されていました。大豆などの作付けに切り替えていましたが、耕作放棄地が拡大しつつありました。
町では当初、遊水地事業の発生土を利用して土盛りをして、将来的に工業団地や住宅地として造成する案も検討しました。しかし、整備費用だけで数億円にのぼり、現実的ではないことがわかりました。
そこで、農地を農地のまま利用してくれる法人に来てもらえないかと考え、農業版企業誘致として事業に取り組むことを決め、実績を持つアグリメディアに相談しました。
アグリメディアの“発信”に全国からの多くの反応
アグリメディアがまず行ったのは、プレスリリースやセミナーを通じて、矢吹町の農地の情報を多くの企業やメディアに届けることでした。
ネットニュースに掲載されたときは、そのスピード感にやや戸惑いつつも、反響の多さに驚かされました。しかし町民からは、「町がここまで考えてくれていたのか」といった喜びの声が寄せられました。多くの農家からの前向きな反応は、職員にとっても大きな自信につながりました。
また、多くの企業関係者の目にも留まり、矢吹町という存在を知っていただけたことも大きな成果だったと感じています。
地元が見落としていた“農地の価値”
わずか数ヶ月で企業3社が参入
アグリメディアが全国に向けてこの水田地帯の情報を発信した結果、現状のままでも農地を活用したいという企業が現れました。土盛りなどの大規模な造成を行わなくても「この程度の谷地であれば十分に利用可能」との評価を受けたのです。
私たち職員も、矢吹町の魅力──たとえば交通の便の良さや土壌の質、平坦性など──については認識していましたが、どういった評価を農業法人から受けるのかは見えない部分もありました。
結果的には、情報発信からわずか数か月で、実際に3社の企業がこの地域に参入し、耕作を開始しました。外部からの視点とアグリメディアの農業法人ネットワークの活用により、矢吹町の土地が持つポテンシャルを再認識することができ、今では地元の方々も「この土地は貴重な資産だ」と考えるようになっています。
農業版の企業誘致は持続可能な農地活用モデル
この取り組みの特徴の一つは、大きな予算を使っていない点です。大規模な造成やインフラ整備を行うことなく、既存の農地をそのままの形で提供し、それぞれが自らのリソースで活用しています。
耕作放棄地の再活用は、日本の農業の未来にとって避けて通れない課題のひとつです。地域の資源を見つめ直し、外部に向けて発信し直すことで、新しいパートナーや可能性が見えてきます。
持続可能な地域づくりは、必ずしも大きな投資や派手な開発を伴うものではありません。むしろ、「今あるものをどう活かすか」という視点こそが、これからの地方の課題解決に向けた大きな手がかりになることを、今回の取り組みを通じて改めて認識しました。